2021年03月13日
コラム
【消化器コラム】 肝機能障害(肝炎)② (肝炎の原因)
肝炎とは何かについては別に述べましたので(→慢性肝炎・肝硬変)の項)、ここでは肝炎の原因について、代表的なものを簡単に説明します。
ウイルス性肝炎
A,B,C,D及びE型肝炎ウイルスなどのウイルスが感染し、肝細胞の中で増殖することで炎症を起こします。
A型肝炎
感染経路は経口感染で、生牡蠣や生の食べ物から感染することが多いといわれます。殆どは一過性の急性肝炎で治癒します。
B型肝炎
主に血液を介して感染します。性交渉で感染することもあります。成人してから感染した場合は、免疫力が発達しているためウイルスを排除しようと戦いが起こります。基本的に急性肝炎の形をとり、激しい炎症を起こします。時に劇症化(劇症肝炎)することもあり、肝不全から死に至ることもあります。劇症化を免れれば、治癒することが多いですが急性肝炎が収まったのち、ウイルスを排除しきれず慢性肝炎に移行する場合もあります。
慢性B型肝炎の多くは、免疫力が未発達である幼少期に肝炎した場合が殆どです。慢性B型肝炎の場合は、肝硬変に至り肝がん合併も多いため、早期から積極的な治療介入が必要です。
C型肝炎
主に血液を介して感染します。初感染時は、B型肝炎同様に急性肝炎を生じます。B型肝炎ほど強い炎症は起こさず(劇症化せず)経過することが殆どですが、効率に慢性化します。放置すれば効率に肝硬変に至り、肝がんを合併します。現時点において、肝硬変の成因として最も多いのはC型肝炎で約半数を占めます。かつてはインターフェロン(IFN
)という副作用も強い治療薬で治療を行ってきましたが、近年では副作用の非常に少ない飲み薬で治療できるようになりました。この薬の登場により、ほとんどの方はウイルスを駆除することができるようになりました。将来的にはC型肝炎の撲滅も期待されています。
D型肝炎
基本的にはB型肝炎ウイルスと同時感染ないしはB 型肝炎ウイルスに感染している方への重感染として認められます。
E型肝炎
A型肝炎同様、経口感染により感染します。基本的には、劣悪な衛生環境下での水系感染として発症しますが、日本においても野生のシカやイノシシの生肉を食べて感染した事例が報告されています。
その他のウイルス
上記の肝炎ウイルス以外のウイルスでも同様の肝障害をきたすことが知られています。代表的なものとしては、EBウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルスなどがあげられます。これらのうち、頻度が高く、肝炎が主兆候を示すのはEBウイルス、サイトメガロウイルスです。
自己免疫性肝炎(AIH)
何らかの原因により、自らの肝細胞を自分の体内の免疫が破壊してしまうことで肝炎が生じる自己免疫疾患です。中年以降の女性に好発し、他の自己免疫性疾患を合併することもあります。頻度は高くありませんが、早期に診断し適切な治療が施されないと肝硬変への進展が早いともいわれています。原因は不明で、遺伝的素因やウイルス、薬物、環境因子など何らかの原因によって肝障害を生じると、これが引き金となって起こるともいわれています。
治療には、他の自己免疫疾患同様にステロイドや免疫抑制剤などが使われます。
原発性胆汁性肝硬変(胆管炎)(PBC)
自らの胆管細胞を自分の体内の免疫が破壊してしまう自己免疫疾患で、肝臓内の「胆管」と呼ばれる部分に炎症が起きます。これにより、肝臓内に胆汁がうっ滞(正常に流れることが出来なくなりその場に溜まってしまうこと)することによってかゆみなどの症状が現れます。炎症を起こす場所が肝細胞ではなく、胆管であるため採血データでは他の肝障害に比べてALPやγGTPといった胆道系酵素の上昇が目立ち、胆汁がうっ滞するためコレステロール値が上がることも特徴とされます。他の自己免疫疾患の合併も多く、治療ではウルソデオキシコール酸を中心に色々な薬剤の併用も行われます。
薬剤性肝障害
薬やその代謝物により肝細胞、もしくは胆管が障害されることで生じる肝障害です。
薬自体や薬を体が代謝する過程で生じた代謝物が原因となる場合があります。また薬剤そのものによる障害(中毒)のほかに、体が過剰反応をきたすアレルギー性の機序も考えられます。
原因となる薬剤では、抗生物質や解熱鎮剤、抗がん剤などが有名ですが、あらゆる薬剤が原因となる可能性があります。漢方薬はもちろん、染毛剤などの化学薬品、さらには健康食品・サプリメントなども原因となったとする報告も少なくありません。
治療としては、とにかく原因となった薬物を中止することにつきます。中止後も肝障害が遷延する場合には、肝庇護剤や胆汁酸製剤、ステロイドなどを必要とする場合もあります。
軽度の肝障害にとどまり、原因薬剤の中止のみで軽快することも多いですが、障害が重篤なものでは、急性の肝不全を来たし肝移植を検討したり、死亡したりするケースもあります。
アルコール性肝障害
飲んだアルコールは、大部分が小腸で吸収されて、肝臓に至ります。そして、肝臓の細胞内でアセトアルデヒドに変えられ、さらにアルデヒド脱水素酵素の働きにより酢酸(お酢)に変わり、無害化されます。
アセトアルデヒドはコラーゲンの合成を促し、肝臓の線維化が進むほか、肝臓の物質輸送を障害したり免疫反応を惹起して肝障害を誘発します。また、アルコールを代謝する過程で酸素を消費し、肝臓内が低酸素状態になることで障害が増悪します。さらに、アルコール代謝が亢進し過剰な酵素が誘導されると、中性脂肪が過剰に産生され脂肪肝になります。このように、アルコールは様々な機序から肝障害を惹起すると考えられています。
日本人は欧米人に比べ、アルデヒド脱水素酵素の働きが遺伝的に弱く、慢性的な肝障害を起こしやすいといわれています。また日本人の約4%はアルデヒド脱水素酵素の活性がほとんどなく、急性中毒症を起こすため、飲酒は危険です。
治療の根本は断酒であり、一般的には禁酒で病態は急速に改善します。しかし、アルコール依存症に陥っている場合もあり、その場合には精神科医の協力も必要となる場合があります。
脂肪肝(非アルコール性脂肪肝)(NAFLD/NASH)
近年、肥満の増加に伴いアルコールによらない非アルコール性脂肪肝も増加しています。
詳しくはこちらをご参照下さい。
代謝性肝障害(ヘモクロマトーシス、Wilson病等)
鉄や銅といった金属が肝臓に大量に沈着することで肝障害を来たします。
鉄が沈着する場合をヘモクロマトーシスといい、遺伝性の鉄吸収亢進や鉄剤投与や大量輸血などにより鉄が肝臓に過剰沈着することで起こります。治療としては、瀉血療法(定期的に血液を抜いて、血液中に多く含まれる鉄分を捨てる)やキレート剤を使用した鉄排泄を行います。
一方、Wilson病は遺伝性の銅代謝異常であり、銅が排泄できないことで肝臓に銅が貯まり発症します。無症状から劇症型の肝不全に至るまで病態は様々ですが、放置すれば肝不全や中枢性神経障害を来たし死に至ることもあります。
治療はキレート剤で銅の排泄を促しますが、反応が悪い場合や劇症型の肝不全をきたす場合には肝移植も検討されます。
胆道系疾患(胆のう炎、胆石症、胆管炎)
肝臓で作られる消化液「胆汁」を腸に運ぶ管のことを胆管(胆道)と言いますが、胆道系の問題でもその上流に位置する肝臓が影響を受けます。黄疸が見られたり、採血上肝臓の数値も上昇するため肝炎との鑑別が問題となることもあります。
腹部超音波、CTなどの画像診断やさらに細かい血液検査などにより鑑別し、原因に見合った治療を行っていきます。
その他
その他、例えば甲状腺疾患など多臓器の疾患の部分的症状として肝障害が出現している場合もあります。
我々、肝臓内科医は肝機能障害で受診された方から、問診で何が疑われるのかを推測し、適切な血液検査や超音波検査などの画像診断を加えることで診断を詰めていきます。また、診断後も慢性肝炎、肝硬変では定期的に状態をチェックし、治療法を再検討していくことが重要です。
肝疾患は、診断が遅れると治療介入が遅れ、肝硬変に至れば完治させることは不可能です。
自覚症状が出にくい疾患だからこそ、早期の受診が極めて重要です。肝機能障害を指摘されたら、お気軽にご相談下さい。
文責 院長 八辻 賢