2022年07月09日
コラム
【専門医に聞いた】夏冬に増える下痢の理由と対処法−日扇会第一病院
みなさんこんにちは、日扇会第一病院に所属する理学療法士の梶原です。
このたび、日扇会第一病院の院長である八辻賢医師にインタビューをしてきました。
【目次】
- 八辻賢医師の略歴
- 下痢になる理由とは?
- 下痢を引き起こす『感染性胃腸炎』の症状
- 下痢治療は『補水』と『ストレス解消』が鍵!
- 感染性胃腸炎の家庭でできる予防策とは?
- 下痢も『コロナ』の症状だった!?
消化器内科の専門医である八辻先生に、夏冬に増える下痢の理由や対処法をお聞きします。
「下痢になる病気ってなにがあるんだろう?」
「薬は何を飲めばいいんでしょうか?」
「自宅でもできる予防法や対処法を知りたい!」
そんなみなさんの気になるポイントを、八辻医師に聞いてみました。
八辻賢医師の略歴
日扇会第一病院の院長であり、一般・消化器・肝臓内科が専門。
横浜市立大学医学部を卒業後、東京女子医科大学病院にて消化器内科医として勤務。
2013年に日扇会第一病院の病院長に就任し、外来だけでなく往診医として地域の患者さんを支える活動をしている。
下痢になる理由とは?
記者:八辻先生、本日はよろしくお願いします。
早速ですが、下痢になってしまう原因や理由について教えてください。
医師:はい。一般的に下痢の原因として多いのは「感染性胃腸炎」なんです。
感染性胃腸炎は年間を通して見られる病気ですが、特に夏と冬の時期に多く見られます。
記者:そうなんですね。では、なぜ夏と冬に多く見られるのでしょうか?
医師:夏に多く見られる理由は、梅雨時期で湿度が高くなり細菌の繁殖に適した気候になるからなんです。
食品を冷蔵し忘れたり加熱が足りなかったりすると、細菌が体に入り食中毒になってしまいます。
特に、夏頃に見られる細菌性の胃腸炎は重症化しやすいので注意しましょう。
記者:食中毒になった経験があるので耳が痛いです…
その時はまだいけるかなと思って食べて、思いっきりお腹を壊しました。
医師:今後はやめておいた方がいいですね。
記者:そうします。では、冬に下痢が増える理由も教えてください。
医師:冬場は乾燥している分、細菌性ではなくウィルス性の胃腸炎が増えますね。
細菌だと抗生剤で治療ができますが、ウィルスは抗生剤が効かないので少し厄介です。
特にノロウィルスは重症化しやすいウィルスなので、かからないように気をつけましょう。
記者:そうなんですね。
たかが下痢と甘く見ていると痛い目を見ることがわかりました。
医師:よかったです。
かかってしまったら最終的には体力勝負になります。
そのため、水分をとって体力を回復させるように休みましょう。
記者:最終的には体力勝負。
まさに胃腸炎になった時、そうだったなと苦い経験を思い出しました。
それこそ、胃腸炎になった時は体調があまり良くなかったのですが、関係はありますか?
医師:大いに関係ありますよ。
胃腸炎の影響で食欲が低下すると脱水状態になります。
その結果、体力がさらに落ちてしまい状態が悪くなるケースは多いです。
特に子どもや高齢者に多いですね。
なので、普段から体調を整えるために食事や感染対策に気を使ってみてください。
記者:わかりました。普段から気をつけてみます。
ただ、元気な時(または病み上がりの時)でも下痢が続く時ってありますよね。
そうなると、なぜ体調が良くなっても下痢は長引いてしまうんでしょうか?
医師:下痢って炎症によって出てくる水分も含め、吸収しきれなかった水分がお尻から出る状態なんですね。
なので、病み上がりの場合は
- 炎症が完全に治まっていないか
- 胃腸炎をきっかけに腸のリズムがおかしくなった
その結果、水分を吸収しきれなくなっている可能性が考えられます。
記者:炎症と腸のリズムですか。元気な場合はいかがですか?
医師:元気な場合であれば、ストレスと水分の飲み過ぎが原因かもしれません。
ストレスによる下痢を「過敏性腸症候群」といい、慢性化しやすい点が特徴です。
感染性胃腸炎は慢性下痢にはならないので、長引く場合は過敏性腸症候群を疑った方がいいですね。
また、水の飲み過ぎにも注意してください。
通常、3食ごはんを食べていれば大体1,000mlは水分摂取が可能です。
飲料水として飲む水分は1,000〜2,000mlが推奨されています。
そのため、2,000mlを超える量を飲んでいると下痢になりやすいでしょうね。
記者:何事もほどほどがいいんですね。
医師:その通りです。
下痢を引き起こす『感染性胃腸炎』の症状
記者:下痢になる理由は幅広く理解できました。
つぎは、細菌やウィルスに感染した際に起こる症状を教えてください。
医師:そうですね… 感染性胃腸炎になった場合、最初にみられる症状は「下痢」と「嘔吐」です。
さらに、感染症なので熱も出る可能性があります。
記者:下痢と嘔吐以外にも熱が出る場合があるんですね。
ちなみに、熱はウィルス性・細菌性のどちらでも出る可能性はありますか?
医師:ウィルス性ではほとんど熱は出ないですね。
一方で、細菌性の食中毒ではけっこう熱が上がりますし腹痛も生じやすいです。
おなかの画像を撮ると腸管がパンパンに腫れあがっている場合があります。
腸管の腫れは強い炎症反応を表しているので、結果的に熱が上がるんです。
記者:熱まで出ていると「病院に行かなきゃ」と判断しやすいですよね。
ただ下痢だけだと病院に行こうとなかなかならず、後回しにしてしまいがちで…
そこで、先生が考える「病院にかかった方がいい」基準ってありますか?
医師:強いてあげるなら「腹痛の強さ」と「血便」が出ているかで判断します。
特に血便まで出ていると重症化しているサインなので早めに受診してください。
記者:そうなると、下痢以外に出ている症状をみて判断すればいいですか?
医師:そういうことです。
軽い症状であれば日扇会第一病院で対処できますので、お早めにご相談ください。
下痢治療は『補水』と『ストレス解消』が鍵!
記者:胃腸炎の症状も把握できたので、つぎは具体的な治療法を教えてください。
医師:はい。
大切なのは「補水」と「ストレス解消」です。
細菌性の感染には抗生剤が効果的ですが、ウィルス性の感染には抗生剤が効かず対処療法になってしまいます。
特に高齢者は感染時に体力が落ちている場合が多く、脱水になると臓器障害などの重症化するケースがあります。
そのため、とにかく点滴をして脱水にならないように対応が必要です。
記者:思っていたよりも脱水って怖いんですね。
体調が悪くなっても受診できる方なら点滴も受けられますが、家から出られない方はどのように対応すればいいですか?
医師:口から水分がとれるのであれば飲んでいただいて、難しい場合は自宅で点滴をして対応します。
記者:日扇会第一病院では訪問診療が利用できますもんね。
ちなみに、感染性胃腸炎にかかった方を自宅でみるケースはありますか?
医師:時期関係なくけっこうありますよ。
軽い症状でしたら訪問診療で対応できますので、悪化しないように点滴で対応します。
記者:自宅でもみてもらえると、患者さんは安心できそうですね。
また、ストレスを溜め込まないためにはどのように生活すればいいですか?
医師:そうですね。一番は睡眠をとって体調を整えることです。
睡眠不足になるとストレスが蓄積し、下痢が慢性化する恐れがあります。
そのため、眠りに入る時間を決めて睡眠時間を確保するようにしましょう。
記者:ストレスを溜めないよう、体調を整えることが大切なんですね。
ちなみに、市販薬など含めて先生がオススメする薬はありますか?
医師:腸内環境の改善に効果的な「整腸剤」をオススメしています。
乳酸菌製剤ともいって、腸の中に善玉菌を送り込んで腸内環境を整える効果があるんです。
逆に気をつけなければならないのは、
安易に「下痢止め」を使わないことですね。
記者:そうなんですか。
下痢症状が出たら下痢止めを飲むイメージがありました。
医師:実は下痢止めって腸の「ぜん動運動」を止めてしまうんです。
(ぜん動運動:腸にあるひだひだが動くことで便を押し出す運動)
下痢止めはおなかを動かさなくするので下痢は止まります。
ただ、細菌やウィルスが腸にとどまってしまう可能性があり、症状を悪化させるリスクがあるんです。
そのため、下痢止めはリスクを説明して同意が取れれば処方します。
ケースとしては、以下のやむを得ない場合です。
- おなかが痛くてたまらない
- 激しい下痢で生活や仕事に支障が出る
記者:第一選択が下痢止めだと思っていたので驚きでした。
もし、使用するときには十分に気を付けます。
感染性胃腸炎の家庭でできる予防策とは?
記者:感染性胃腸炎にかからないために、家庭でもできる予防策はありますか?
医師:予防策としては細菌を繁殖させないように、環境や身の回りのものに注意を払ってみましょう。
具体的にはこまめな手洗いや湿度・温度を一定に保つ、食品は冷蔵してしっかりと加熱するなどが挙げられます。
記者:基本的な感染対策と似ていますね。
ちなみに、先生が特に気をつけている対策はありますか?
医師:職業がら手洗いは意識してやっていますね。
多くの場合、菌は手を介して体に入るので、とにかく手洗いは徹底しましょう。
記者:はい。より一層気をつけます。
下痢も『コロナ』の症状だった!?
記者:下痢について調べていた時に
「下痢はコロナウィルスの症状に含まれますか?」という疑問を目にしました。
先生の見解として、関連はあると思いますか?
医師:結論からいうと、下痢とコロナウィルスの関連性はあります。
要はウィルスの繁殖場所がどこかという話です。
ウィルスが喉で増えればかぜ症状が目立ちますし、肺で増えれば呼吸器症状である息苦しさがみられます。
そして、ウィルスが腸管で増えた場合は下痢症状がみられるわけです。
徐々にわかってきたことなんですが、コロナウィルスは腸でも増えるといわれています。
記者:そうなんですね!
個人的には呼吸器の疾患というイメージが強かったので、下痢は関係あるのか疑問に思っていました。
医師:症状を並べてみると一見かみ合わなそうですよね。
しかし、ウィルスがどこで増えるかによって症状が変わるんです。
ウィルスごとで繁殖に適したところがあり、その中でもコロナウィルスは腸で増える可能性があります。
そのため、コロナウィルスを感染した際に症状として下痢が現れる可能性があるんです。
読者の方へメッセージ
記者:先生、今日は「下痢」について教えていただきありがとうございました。
最後に、読んでいる方へのメッセージをお願いします。
医師:まずは病気を予防し、かからないことが大切です。
特に夏前のジメジメした時期は、手洗いうがいや食材の加熱などを徹底しましょう。
これは、コロナウィルス予防にも通じることですね。
かかってしまった後は症状が重篤化しないように、脱水に注意しましょう。
また、中には大腸がんや炎症性腸疾患などいろんな病気で下痢をするパターンもあります。
感染性胃腸炎であれば、かぜと一緒で1週間のうちには症状が落ち着くんですよね。
長引くようでしたら、早めに病院へきて相談してください。
記者:わかりました。
たかが下痢だからと考えて安易に放っておかないように気をつけます。
インタビューさせていただいて、自分自身の下痢に対するイメージがだいぶ変わりました。
医師:それはよかったです。
インタビュアー・編集:梶原拓真