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2021年07月19日

コラム

【消化器コラム】 消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)

消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)とは?

消化性潰瘍とは、胃や十二指腸の表面を守る粘膜に傷がつき、穴が開くことで生じます。浅いと「びらん」、深いと「潰瘍」と呼ばれます。消化管(胃や十二指腸)には、食物を分解する消化液・胃酸が存在しますが、それらから身を守る防御機構を有しています。攻撃因子(消化液・胃酸)と防御機構のパワーバランスが崩れ、攻撃因子が優位になると、自分の粘膜を攻撃し、傷つけることで悪化していきます。

 

症状

腹部膨満(腹がはって苦しい)、悪心(吐き気)・嘔吐、食欲不振、胸やけなど種々の症状を生じえますが、最も多い症状は心窩部痛(みぞおち)の鈍い痛みです。多くの消化器疾患では、食事を食べることで増悪することが多くみられますが、消化性潰瘍ではむしろ空腹時に痛みが増強し、食事をとることで軽快することが多く、鑑別の一助となります。

また、潰瘍が増悪し、深くなると血管を傷つけ出血を伴うようになります。潰瘍から出血すると吐物や便に血液が混じってきます。吐物に混じった血液は、少量なら黒っぽくなり、大量の時はまさに血を吐く、「吐血」になります。便に出るときは黒い便(タール便)になります。胃潰瘍の場合は、吐下血ともに見られますが、十二指腸潰瘍では下血のみにとどまることも少なくありません。

ただし、症状の出方は非常に個人差があります。検診の内視鏡検査ですでに大きな潰瘍があるにも関わらず、まったく痛みを感じていない、という方もいますし、吐下血で気が付くまで全く症状がなかったという方もおられますので、注意が必要です。

 

原因

現在では主に①ヘリコバクター・ピロリ菌感染、②NSAIDS(痛み止めとして多く使われる非ステロイド系抗炎症薬)の2つが原因であることがわかっています。ストレスや暴飲暴食、喫煙などが原因と言われていた時代もあり、確かにリスクと考えられますが、消化性潰瘍のほとんどが、上記の2大原因で説明できるといわれています。

①ヘリコバクター・ピロリ感染

ピロリ菌に感染すると、胃粘膜に炎症を起こし、胃を守る粘液の分泌が低下し、防御機能が低下することで潰瘍が発生しやすくなるといわれています。ピロリ菌の除菌に成功すると、潰瘍の再発が抑えられることが明らかとなっており、積極的に除菌することをお勧めします。(→ピロリ菌についてはこちら)

②NSAIDS(非ステロイド系抗炎症薬)

NSAIDSは解熱・鎮痛・炎症を抑えることを目的として使われる薬剤です。リウマチや関節の痛みなど整形外科領域で使われることが多い薬剤ですが、脳梗塞や心筋梗塞になった方やその危険性のある方の再発予防に使用されるアスピリンもNSAIDSの一種です。こうした疾患を有することの多い高齢者へのNSAIDS投与が増加しており、課題となっています。

NSAIDSは、プロスタグラジン(PG)の産生を抑えることで、鎮痛・抗炎症作用を発揮しますが、PGには胃の粘膜を保護する働きもありますので、これを抑えることで胃粘膜の防御力が低下し潰瘍が発生しやすくなるといわれています。非常に有用な薬剤である一方で、消化性潰瘍に対しては大きなリスクとなります。特に長期に服用する必要のある方は、制酸剤などの胃薬を併用されたほうが良い場合もあります。服用中の方は一度主治医に相談されてみるとよいでしょう。

 

疫学

厚生労働省の推定患者数統計によれば、潰瘍患者数は年々減少し、2014年で胃潰瘍は29,200人、十二指腸潰瘍は4,400人となっており、それぞれ1984年の26%、10%まで減少しています。その理由は、原因がわかり予防策がとれるようになったことが大きいと思われます。消化性潰瘍は悪性の疾患ではないので、早期に発見しきちんと治療を行えば、それにより命にかかわることはまずないといえます。一方、明治の文豪夏目漱石がそうであったように、出血をきたしたり、穿孔(胃や十二指腸に穴が開き、腹の中に消化液が漏れて腹膜炎を生じる)を生じることで死亡に至ることがあります。現在では、いわゆる特効薬がありますし、内視鏡による治療も非常に発達していますので、当時とは事情が大きくことなりますが、それでも2017年度の統計で、2513名が消化性潰瘍による出血や穿孔で命を落としています。また、潰瘍が深く大きくなってしまうと、仮に治癒しても変形や狭窄などをきたし、その後の生活に大きな影響を与えることがあります。

早期に発見し、早期にきちんと治療しておくことが重要です。

 

診断

症状などから、消化性潰瘍が疑われたらまず画像検査において潰瘍があるかを確認します。

バリウム検査(X線造影検査)でもわかりますが、最近では内視鏡検査を行うケースが殆どで、特に出血が疑われる場合は、緊急で内視鏡検査を行い、必要に応じて止血処置を行うこともあります。また、癌が原因で潰瘍を作ることもあり、同時に病変部位から組織を採取して良性・悪性の検査ができる点でも内視鏡検査のほうが勝ります。

胃潰瘍 胃潰瘍出血

治療

消化性潰瘍の治療の基本は内服薬です。胃酸の分泌を抑える制酸剤を中心に胃粘膜の防御機能を高める薬などが用いられます。通常は、内服開始後、6~8週間で治癒するといわれていますが、当然、胃にとってストレスとなるような生活習慣も改善する必要があります。具体的には、暴飲暴食の是正、喫煙やアルコールを控え、ストレスをためないように対策をとることも重要です。きちんと治療すれば治癒する疾患ですが、中途半端に終わらせると再発率も高く、重症化することもあります。まずは必要な期間、必要な薬をしっかりと服用することが何よりも大切です。

治療前 治療後

同時に、原因を追究し、再発予防に努めることが肝要です。中でも、2大原因と言われる「ピロリ菌」「NSAIDS」に対する対策は必須です。

 

ピロリ菌に感染していると、一度治癒しても繰り返し再発することが知られています。また、ピロリ菌は胃癌の原因にもなります。感染が確認されたら、積極的な除菌をお勧めします。(→ピロリ菌についてはこちら)

NSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬や、血液をサラサラにするアスピリン)を服用中の場合には、再発の危険も高く、中止や他剤への変更ができないか、主治医とよく相談されることをお勧めします。

 

怖い合併症は、何といっても出血と穿孔です。いずれも命に係わる危険があり、早急に処置を行う必要があります。穿孔の場合は、外科的手術が必要となる場合が多く、出血(吐下血)の場合は内視鏡により止血処置ができることも多くあります。

 

 

消化性潰瘍は、早期に発見し、しっかりと治療すれば十分に治癒する疾患となりました。

とにかく早期に発見し治療することにつきます。早期発見には内視鏡検査が有効です。
少しでも気になる症状があれば、積極的に内視鏡検査を受けることを強くお勧めします。当院でも積極的に内視鏡検査を行っています。是非外来でご相談下さい。

文責 院長 八辻 賢

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