2020年12月29日
コラム
【消化器コラム】 下血(血便・黒色便)
下血とは? ー血便・黒色便ー
肛門(おしり)から血が出ることを総称して下血と呼びます。おしりから血が出るわけですから、原因は消化管(胃や腸、肛門)からの出血と考えられます。
下血は黒色便と血便に分類されます。に、赤い血(鮮血便)が出ることを「血便」といい、黒い血(タール便)がでることを「黒色便」と言います。このように区別するのは、その色調によって出血点が推測出来るからです。便に混ざる血液は、出血してからの時間が経過するにつれ、赤から黒色調に変化し、胃酸の影響を受けると黒色に変化します。つまり、鮮やかな赤に近いほど出血点は肛門に近く(肛門周囲、痔や大腸)、黒っぽいほど肛門から遠く、胃に近い(胃、十二指腸、上部小腸)可能性が高いと推測できるわけです。
下血をきたす疾患(例)
下血をきたす疾患は、口から肛門まで様々な疾患で起こりえます。非常に多岐にわたるため、すべてを列記することは困難ですが、ここでは、代表的な疾患をお示しします。
上部消化管
- 食道がん
- Mallory-Weiss症候群
- 逆流性食道炎
- 食道・胃・十二指腸びらん
- 急性胃粘膜病変(AGML)
- 毛細血管拡張症
- 胃・十二指腸潰瘍
- 食道・胃静脈瘤胃がん
小腸
- 小腸腫瘍
- 小腸潰瘍
下部消化管
- 大腸がん
- 虚血性大腸炎
- 薬剤性腸炎
- 大腸憩室出血
- 潰瘍性大腸炎
- Meckel憩室
- 感染性腸炎
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
- 痔核出血
原因の同定と検査
まず、問診で状況を確認します。
基礎疾患や出血歴は、病変の鑑別上重要なだけでなく、検査を選択するうえでも重要です。特に、潰瘍歴(これまで潰瘍治療を繰り返しているか)、飲酒歴、薬物(抗血栓薬や消炎鎮痛剤、ステロイドなど)、肝炎の有無等の病歴、そして出血時の状況は大いに参考になります。例えば、中高年で突然の腹痛、下痢が生じた後に下血が生じていれば虚血性腸炎を疑いますし、抗生剤内服中に鮮血の下血を認めたら薬剤性腸炎を疑います。 また、肝炎(肝硬変)の方の下血を見たら、食道・胃静脈瘤を念頭に置かなくてはなりません。
次に、問診で得た情報を参考に検査を行います。
原因を推測しながら採血やCT、最終的には内視鏡検査などを行い原因を同定、原因に即した治療につなげるのが一般的です。
下血量が少ないからと言って、安心はできない
原因となり得る疾患は多岐にわたりますが、何が原因であっても大量に出血した場合は貧血の進行からショック状態となることもあり、もちろん危険です。一方、大腸癌の様な命に関わる疾患でもあっても少量の出血にとどまることもあり、出血量が少ないからと言って安心は出来ません。
実際、外来診療をしていると、少量の出血だから「痔だと思っていた」「肛門が切れただけだと思っていた」と様子を見ているうちに病気が進行し、気が付いた時には進行がんになっていた、というケースもあります。仮に「がん」であっても、早期に発見できれば内視鏡で治療・治癒することも可能です。なにより早期に発見することが重要です。
そのためにも下血があったときは、少量であってもしっかり検査を受けて、原因を同定しておくことが肝要です。気が付いた時は積極的に内視鏡検査を受けましょう。
当院では消化器内視鏡学会専門医による上部(胃カメラ)・下部内視鏡検査(大腸カメラ)を行っています。気になる症状があれば、ぜひご相談ください。
文責 院長 八辻 賢