2021年06月14日
コラム
【消化器コラム】 下痢症 この季節特に注意!
下痢症とは
下痢は排便の回数が多く、水分を多く含む形のない便が出る状態をいいます。
腸に入ってくる水分は、食べたり飲んだりした水分と分泌される消化液を合わせて約10Lと言われています。しかし、その殆どが小腸で吸収され、便として排出される水分はおよそ100~200mLと言われています。
何らかの理由で腸での水分の吸収が不十分だったり、腸からの分泌物が増加することで便中の水分が増えると下痢が起こります。
理想的とされるバナナ状の便の水分量は70%~80%ですが、これが80%~90%になると「軟便」、水分量が90%を超えると水様便となり「下痢便」の状態になります。
下痢の分類
下痢の分類には様々なものがありますが、大きくは起こる機序による分類と、発症したからの期間による分類があります。
発生の機序による分類
- 浸透圧性下痢;腸からの水分吸収が妨げられる。食べたものの浸透圧(水分を引きつける力)が高く、腸で水分が吸収されにくい。人工甘味料の取り過ぎ、乳糖不耐症など。
- 分泌性下痢;腸からの水分分泌が増える。細菌による毒素やホルモンの影響など。
- 蠕動運動性下痢;腸の通過時間が短くなる。過敏性腸症候群や甲状腺機能亢進症など。
- 滲出性下痢;炎症により水分がしみ出してしまう。クローン病や潰瘍性大腸炎など。
発症してからの期間による分類
- 急性下痢;発症からおおむね1週間以内に症状が落ち着くもの。
- 慢性下痢;下痢が1か月以上続くもの。
病態を理解する上では、発生機序による分類が有効ですが、診察上原因を鑑別するには発症からの期間が有効です。
下痢の原因
急性の下痢症
急性下痢を起こす原因には、胃や腸からの出血の初期症状であったり、心筋梗塞や大動脈瘤などの急を要する疾患の初期症状であったりする場合もありますが、ほとんどは、アルコールや刺激物の取り過ぎ、暴飲暴食など、生活習慣の乱れに基づくものです。それ以外では、ウィルスや細菌の感染によるもの(感染性腸炎)が多く見られます。
慢性の下痢症
慢性の下痢の原因としては、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)などの慢性疾患、また乳糖不耐症、薬剤性の下痢(薬の副作用)などがあげられます。原因に応じて下痢以外の随伴症状(発熱や腹痛、血便や体重減少など)を伴うことも多いので、診断の一助となります。
慢性下痢の中では、最近、過敏性腸症候群(IBS)が増えており注目されています。IBSとは、諸検査で腸に異常がみつからないにもかかわらず下痢が続く病気で、慢性の下痢の大半を占めていると言われています。症状としては、通勤通学の途中で電車に乗ったときなど、緊張・不安・ストレスがかかると、突然、腹痛が起こり下痢をするというのが典型例です。
下痢の治療
急性下痢の場合は、その殆どが生活習慣の乱れから起こるので、特に治療をしなくても自然と良くなることも多く経験されます。便がゆるくなってきたら、アルコール、刺激物の摂取や暴飲暴食を控え、おなかを温かくしてゆっくり休養を取りましょう。下痢をしているときには、水分が大量に出てしまうことから脱水状態を起こしやすく、水分の摂取は重要です。
但し、中には急を要する疾患に伴うこともあることから、下記を参考に思い当たる症状があれば一度受診をお勧めします。
注意するべき下痢
- 経験したことがないような激しい下痢
- 排便後も腹痛が続く
- 症状が増悪傾向
- 血便が出る
- 下痢以外にも発熱、嘔吐が見られる
- 脱水症状がある
- 周囲にも同時に下痢になった人がいる。
また、感染性腸炎では、むやみに止痢薬(下痢止め)を使用すると、排便が止まることでむしろ腸の中で有害な菌が増えてしまうことがあるので、原因がわかるまでは注意が必要です。さらに、嘔吐を伴うと口からの水分摂取が困難となり、点滴による水分補給も必要になる場合があります。
慢性下痢では、原因に応じた治療を行うのが基本ですが、症状が強いときにはQOLを著しく損なうことから対症療法として止痢薬を併用する場合もあります。
上記の様な注意するべき下痢に該当する場合、症状が改善しない場合などは、なにか重大な疾患が潜んでいる可能性もあります。採血やCT、下部消化管内視鏡(大腸カメラ)などが有効であることもあります。また、脱水症状で辛いときには点滴も有効です。
是非、外来でご相談下さい。
文責 院長 八辻 賢