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2020年11月22日

コラム

【消化器コラム】 ピロリ菌

ピロリ菌除菌治療の勧め

ピロリ菌は、様々な疾患の原因になることが知られており、特に胃癌はその殆どがピロリ菌が原因であることがわかってきました。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは「全てのヘリコバクターピロリ感染者に対し除菌療法を行うことを推奨する」としています。ピロリ菌を除菌することで様々な疾患の治癒・再発予防が出来る事がわかってきたからです。

しかし、ピロリ菌に対する検査・除菌治療の保険適応は胃・十二指腸潰瘍や早期胃癌に対する内視鏡治療後など限定されており、胃癌の予防といしての治療は出来ませんでした。

そんな中、2013 年 にピロリ感染症とほぼ同義である「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」が一つの疾患単位として認められ、保険診療によるピロリ菌検査・除菌治療が可能になりました。除菌は3種類の薬を7日間服用するだけで出来ます。この機会にピロリ菌の検査・治療を考えてみてはいかがでしょうか?

 

※ヘリコバクターピロリ感染胃炎と診断、治療を行うためには保険診療上、上部消化管内視鏡(胃カメラ)が必要です。ピロリ菌に感染している場合には、必ず慢性活動性胃炎を起こしており、胃癌をはじめとするピロリ関連疾患が併存している可能性があります。日本ではとくに胃癌が多いので、胃癌のチェックをしたのちに除菌治療を行うべきであることから、内視鏡検査が必須となっています。

 

当院では消化器内視鏡学会専門医による上部内視鏡検査から、ピロリ菌診断、治療も行っています。是非外来でご相談ください。

 

ピロリ菌とは?

ピロリ

ヘリコバクター・ピロリとは胃の粘膜に生息しているらせん形の細菌です。らせん形(へリコイド helicoid)から命名されており、ヘリコプターの「へリコ」と同じ意味です。端に鞭毛と呼ばれる毛が4~8本付いていて、活発に運動することができます。

従来、胃には強い酸(胃酸)があり、食べたものを消毒し、食中毒などを予防することができるため、胃の中で生息できる細菌はいないと考えられていました。ところが、1982年にオーストラリアのワレンとマーシャルという医師が胃の粘膜からの培養に成功し、ピロリ菌が胃の中に生息していることを報告しました。この業績により二人はノーベル医学生理学賞を受賞しています。

その後、一気に研究が進み、ピロリ菌は多くの病気に関わっていること、特に胃癌の発生と密接に関連していることが証明されています。

なぜピロリ菌に感染する?

ピロリ菌の感染経路はまだはっきり解明されていませんが、口を介した感染(経口感染)が大部分と考えられています。日本におけるピロリ感染率は団塊の世代以前の人は高く、若い世代では低くなり欧米並となっています。こうしたことから、衛生処理が不完全な生活用水に混入したピロリ菌が主な原因と考えられており、上下水道が完備された世代では少なくなったと考えられています。代わりに最近では、離乳食が開始される生後4~8か月の時期の保護者による「離乳食を噛んで与える行為」が注目されています。つまり、唾液を介した感染が主と考えられており、ピロリ感染者の親も感染者であることが多かったり、親子でピロリ菌の株や遺伝子が一致することが多いと報告されています。

ピロリ菌は、胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分な幼小児期に持続的感染が成立すると考えられています。(成人では感染しても胃炎は起こすものの一過性感染で終わることが多いとされています。)

ピロリ菌は一度持続感染が成立すると自然消滅することは稀と言われており、消滅させるためには治療(除菌療法)が必要です。親世代が積極的に除菌を行うことで、子世代への感染も防ぐことが出来ます。

ピロリ菌が引き起こす種々の疾患

ピロリ菌は胃粘膜に感染して胃炎(ピロリ感染胃炎)を引き起こします。胃粘膜の慢性炎症を背景として、萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成ポリープなどの様々な上部消化管疾患を引き起こします。

また、免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病や小児の鉄欠乏性貧血などの消化管以外の疾患との関連性も指摘されています。

日本ヘリコバクター学会による「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン(2016改訂版)」でも、ピロリ菌との関連が高く、更に除菌することで治療や予防、更に感染経路の抑制に役立つ者として以下のように纏めています。

A. ピロリ除菌が強く勧められる疾患

  1. ピロリ感染胃炎
  2. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  3. 早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃
  4. 胃MALTリンパ腫
  5. 胃過形成性ポリープ
  6. 機能性ディスペプシア(FD)
  7. 胃食道逆流症
  8. 免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)
  9. 鉄欠乏性貧血

B.ピロリ感染との関連が推測されている疾患

  1. 慢性蕁麻疹
  2. Cap polyposis
  3. 胃びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)
  4. 直腸MALTリンパ腫
  5. パーキンソン症候群
  6. アルツハイマー病
  7. 糖尿病

このようにピロリ菌は種々の疾患の原因になりますが、除菌できれば上記の様な疾患も治癒したり、再発を防ぐことが可能です。更に、早期に診断、除菌が成功すれば、発病自体を防ぐことも出来ます。

胃癌の原因のほとんどはピロリ菌

ピロリ菌が引き起こす諸疾患の中でも、特に胃癌は問題です。2018年の癌統計(人口動態統計による全国がん死亡データ)では、胃癌は第3位の死亡数(男性第2位、女性第4位)と報告されています。

日本では、胃癌の原因のほとんどがピロリ菌感染によるものです。ピロリ菌未感染者の胃癌リスクは極めて低いと報告されており、ピロリ未感染者に比べた現感染者の胃癌リスクは15倍以上と報告されています。逆に、内視鏡治療および外科手術を行った胃癌症例の中で、ピロリ菌陰性だったのは0.66%だったとの報告もあります。

ピロリ菌の除菌に成功した場合、胃がんのリスクは3分の1~3分の2程度に低下するとされていますが、未感染者に比べると高いといわれています。感染していた期間が長くなるにつれて、胃粘膜萎縮が進行し、胃癌リスクが高まるためと考えられています。胃粘膜の萎縮の程度により胃癌のリスクは大きく異なることから、萎縮が進行する前の早期にピロリ菌感染検査を受けて除菌することが望ましいと考えられます。

ピロリ菌の診断法

ピロリ菌に感染している場合には、必ず慢性活動性胃炎を起こしており、胃癌をはじめとするピロリ関連疾患が併存している可能性があります。日本ではとくに胃癌が多いので、胃癌のチェックをしたのちに除菌治療を行うべきであることから内視鏡検査は必須とされています。

その上で、ピロリ菌がいるかどうかを検査するには以下の方法があります。

内視鏡による生検検査を必要とする検査

内視鏡を使う方法では、胃の中の様子を観察すると同時に、内視鏡により採取した胃の組織を用いて検査を行います。以下の3つの方法があります。

  1. 迅速ウレアーゼ検査:ピロリ菌が作り出すアンモニアの量を測定することで、採取した組織中にピロリ菌がいるかどうかを調べます。
  2. 鏡検法:採取した胃の組織を染色し、顕微鏡で調べることで、組織中にピロリ菌がいるかどうかを調べます。
  3. 培養法:採取した胃の組織を培養し、ピロリ菌が増えてくるかどうかを調べます。

内視鏡による生検検査を必要としない検査

  1. 尿素呼気試験:検査薬を飲み、一定時間後に吐き出された呼気を調べてピロリ菌に感染しているかを調べます。
  2. 抗H.pylori抗体測定:採血検査にて、血中にピロリ菌に対する抗体を持っているかを調べます。
  3. 便中H.pyroli抗原測定:便を調べて、便中にピロリ抗原があるかどうかを調べます。

 

上記の様な方法で、ピロリ菌がいると診断されれば、7日間薬を飲むことで除菌することが出来ます。

ピロリ菌の治療(除菌)

ピロリ菌の除菌療法は、1種類の「胃酸を抑える薬」と2種類の「抗菌薬」の合計3剤を服用します。1日2回、7日間服用する治療法です。正しく薬を服用すれば1回目の除菌療法の成功率は約75%といわれており、最近では約90%とする報告もあります。

すべての治療が終了した後、4週間以上経過してから行うピロリ菌の検査(除菌できたかどうかの検査)は必ず受けてください。

 

一次除菌療法でピロリ菌が除菌できなかった場合

ピロリ菌の薬剤耐性や、内服薬の中断などで一次除菌療法で除菌できなかった場合は、2種類の「抗菌薬」のうち1つを初回とは別の薬に変えて、再び除菌療法を行います(二次除菌療法)。
一次除菌療法で除菌ができなかった場合でも、二次除菌療法をきちんと行えば、ほとんどの場合、除菌が成功すると報告されています(二次除菌療法までは、保険診療で行うことができます)。

 

除菌成功後も、定期的な検査を受けましょう。

ピロリ菌の除菌療法が成功すると、ピロリ菌が関係している様々な病気のリスクは下がりますが、ゼロにはなりません。

胃カメラ

特に胃癌については、除菌で大きくリスクが下がるものの、未感染者に比べると高いといわれています。感染していた期間が長くなるにつれて、胃粘膜萎縮が進行し、胃癌リスクが高まるためと考えられています。除菌後も定期的に内視鏡検査などを受け、胃の状態を確認しましょう。

 

 

文責 院長 八辻 賢

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