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2021年07月19日

コラム

【消化器コラム】 たかが便秘? 身近なことだから相談してほしい

 

便秘は極めてありふれた症状の一つであり、実際便秘を自覚している患者さんでも手軽に入手出来る市販薬を使用している方が多いように思います。医療機関を受診されても、これまでは便秘の治療に使える薬が少なく、なかなか満足のいく便通コントロールが得られていなかったのではないでしょうか?

しかし近年、便秘治療の分野で新薬が続々と登場し、治療の幅が広がって来ました。消化器病学会でも注目を集める分野となり、2017年には初めてエビデンスに基づいた「慢性便秘症診療ガイドライン」が刊行されるなど、便秘に対する考え方も変わってきています。また、種々の研究報告もなされ、「たかが便秘、死ぬわけじゃあるまいし」とも言っていられない可能性も指摘されています。

 

たかが便秘?

便秘を治療する必要性として、まず思い浮かぶのは生活の質(QOL)の低下です。腹部膨満感や腹痛、残便感などあれば、生活の質が落ちるのはもちろん、酷いと日常の活動性や労働生産性にまで影響を及ぼすことがあり、不安や鬱症状の合併も多いと言われています。しかし、近年ではそれにとどまらず命に係わることもあることが明らかとなってきました。

便秘患者と便秘のない対照群を15年間観察した研究では、明らかに便秘症患者の生存率が低かったと報告されています。この原因については不明な点も多くありますが、心筋梗塞や脳卒中などの発症率が高いことは良く知られています。

これは排便時のいきみや努責等で血圧上昇が急峻に起こすためと考えられており、現にトイレからの救急要請も少なくありません。更に明確な結論は出ていませんが、便秘と大腸がんの関連を示唆する報告もあります。このように、便秘はQOLを低下させる病気というだけでなく、死に繋がる病気でもあると概念が変わってきており、まさに治療しなければならない病気になったと言えます。

便秘の人はどのくらい?

便秘の疫学

令和元(2019)年 厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、日本では男性2.5%、女性4.4%の方が便秘を感じていると報告されています。特に50歳以下では女性に多く見られますが、男女ともに加齢と共に増加し、70歳以降では男女差がなくなる傾向にあります。

便秘に悩む方は、若い世代でも決して少なくないといえますが、人口の高齢化に伴い急増していることがわかります。

そもそも、便秘とはなにか?

そもそも何を持って便秘というのか、これまで様々な定義が提唱されてきました。日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」としています。これまで概ねこうした概念で捉えられてきましたが、2017年に日本消化器病学会から「慢性便秘症診療ガイドライン2017」が刊行され、その中で「本来体外に排出するべき糞便を十分量かつ快適に排出出来ない状態」と定義されました。ここでは排便回数の明確な規定はなく快適かどうかを問うています。排便は非常に個人差も大きいため、必ずしも毎日排便があるべきというわけでもありません。快適かどうかを考えてみることも重要かも知れません。

 

便秘の原因

野菜不足やダイエットなど、食事量(特に食物繊維)や水分不足、また、排便を我慢したり朝食を抜いたりする生活の乱れや緊張や心因性のストレス、加齢に伴う生理機能の低下、運動不足なども原因になりえます。また、糖尿病や膠原病、大腸がんなど病気が原因でなることもあれば、他疾患の治療のために服用していた薬剤が原因となることもあります。

特に高齢者の場合は、加齢に伴う変化に加えて食事量が少なくなったり、運動不足が重なったり、更には大腸がんなどの腸の疾患、また糖尿病など腸の機能に影響を与えるような病気の合併も多くなります。このように、様々な原因が合併しやすく、複合的に絡み合って生じているケースも見られます。

便秘のタイプは?

日本では古くから、器質性・症候性・薬剤性・機能性(痙攣性・弛緩性・直腸性)という分類が広く用いられてきました。しかし、2017年の慢性便秘症診療ガイドラインでは、国際的な基準に合わせて、症状による分類も加味されています。まず、原因から器質性(大腸の形態変化を伴う便秘;大腸がんによる狭窄など)、機能性(大腸の形態変化を伴わない便秘)に分類します。大半を占める機能性便秘は、症状から「排便回数減少型」「排便困難型」の2つに分類され、さらに病態から「大腸通過遅延型」「大腸通過成城型」「便排出障害型」に細分化されています。

【症状から】

  1. 排便回数減少型:排便回数や排便量が減少して、腸に便が過剰に貯留するために腹部膨満感や腹痛などの症状を生じる。腸内での便の停滞時間が長いため硬くなり、硬便による排便困難を生じることもある。
  2. 排便困難型:排便時に直腸内の便を十分量かつ快適に排便出来ず、排便困難や不完全排便による残便感を生じる。

 

【病態から】

  1. 大腸通過遅延型:糖尿病や膠原病などの病気や薬剤の影響などにより、大腸の便を輸送する能力が低下し、排便回数や排便量が減少するタイプの便秘
  2. 大腸通過正常型:食事量(食物繊維)が少なく糞便量が減り、排便回数が減るため便が硬くなり出せなくなる場合など、大腸の便を輸送する能力には問題ないタイプの便秘
  3. 機能性便排出障害:骨盤底筋協調運動障害や腹圧(怒責力)低下、直腸感覚低下、直腸収縮力低下などにより、直腸の機能障害を生じ、直腸の便が十分量快適に排泄できず、排便困難や残便感などを生じるタイプ。

 

【慢性便秘症の分類】

症状 病態
排便回数減少型 大腸通過遅延型
大腸通過正常型
排便困難型 硬便による排便困難
機能性便排出障害

 

こうした分類をすることで、何が問題なのか明らかに出来れば、自ずから対処するべきことが見えてきます(実際には複合的なパターンも多いと思いますが・・)。

どのタイプの便秘なのかを知ることで、原因が予測でき解消に繋がる場合も少なくありません。食生活の改善や運動など、根本的な原因の解消に努めるのはもちろん、場合によっては適切な下剤の使用も効果的です。。前述のように、近年色々な作用機序を持った新薬が登場しています。原因によって適した下剤も異なります。

 

 

快適な排便と治療目標

排便の快適さには便の性状も大きく関係します。便の性状とはいわゆる固形便、軟便、泥状便、水様便などと表現されるものです。これを客観的に評価・記録するために「ブリストル便性状スケール」が広く用いられています。タイプ1~7で表現され、数値が大きいほど便性状が柔らかいことを表します。便の軟らかさと腸内にとどまる時間はおよそ相関するので、便の性状も便秘のタイプを知る一助となります。

このブリストル便性状スケールを用いて、日本人における便性状タイプごとのQOLを検討した研究では、タイプ4(表面が滑らかで柔らかいソーセージ状、バナナ状)の性状便が最もQOLが良好だったと報告されています。こうしたことからタイプ4の便にすることを目標に治療していくことが、QOLの改善に繋がっていく可能性も指摘されています。

 

たかが便秘、されど便秘です。「排便」に関する悩みはデリケートな問題でもありますが、放置することで症状が悪化するのみならず、場合によっては命に関わる危険性も指摘されています。放置せずにご相談ください。

文責 院長 八辻 賢

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